「このささやかな眠り」
![]() | このささやかな眠り (1992/09) マイケル・ ナーヴァ/著 柿本暎子/訳 創元社(創元推理文庫) ISBN4-488-27901-5 商品詳細を見る |
「もっと早くきみに会えていればなあ
― せめて五年前でもいいから」
「なぜ、今じゃいけないんだい?」
(本文より抜粋)
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
七月最終日の朝。
弁護士のヘンリー・リオスと青年ヒューが出会ったのは、拘置所だった。
麻薬がらみの罪状で拘留されていたヒューは、謎めいた魅力でヘンリーを惹きつける。
当たり前のよう愛し合うふたりだったが、しかし、幸福な時は長くは続かなかった。
…ある晩、ヒューが死んだのだ。
彼の死の真相を突き止めようと決意したヘンリーは…
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「死と再生の物語」をふたつ紹介しよう。
ひとつ目はマイケル・ナーヴァ著「このささやかな眠り(原題 THE LITTLE DEATH)」。
ゲイの弁護士が、恋人の死の真相を追うという内容の推理小説だ。
この物語は、ハッピーエンドではありえない。
なぜなら、物語の冒頭で、すでに主人公の恋人は死んでいるのだから。
しかし、敏腕弁護士ヘンリーが颯爽と犯人を追い詰め華々しく恋人の敵を討つ物語
…なのかというと、決してそういうわけでもない。
ヒューの死の真相は複雑にからみあい、意外な結末を迎えることになる。
それはおそらく、読後にある種の苦さとやるせなさの残るたぐいの終わり方だ。
しかし、だからこそ、私はこの小説には一番ふさわしい結末だと思う。
なぜなら、事故死に見立ててヒューを殺した犯人を探し当て、その罪を明るみに
さらすこと自体は、とりたててこの物語の重要なテーマではないからだ。
ヘンリーは、誰に妨害されても、どんな危険な目にあっても、友人に強く制止されても、
ひたすらまっすぐに、ヒューを殺した犯人を突き止めようとする姿勢を崩さなかった。
彼はなぜ、そこまでするのか?なにが、彼にそこまでさせるのか?
重要なのは、その「なぜ」「なにが」の部分だ。
「もしかしたら」「ぼくの求めていたのは正義などではなくて、ただヒューへの
悲しみのはけ口だったのかもしれない」
作中、彼はそう独白するが、彼を突き動かしたものは悲しみだけではないだろう。
のうのうと罪を逃れている犯人や、捜査を放棄し、事故死としてヒューの死を
処理した警察への怒りはもとより、なによりも強い慙愧の想いもあったはずだ。
殺されそうだから身を隠している、と繰り返すヒューの言葉を、
ヘンリーはまるで信じていなかった…彼が生きている間は。
そして、ようやくヘンリーが、ヒューの置かれた状況の深刻さを察したまさにその日、
彼の手のとどかないところで、ヒューは殺されてしまったのだ。
ヒューを心から愛していたヘンリーが、彼の言葉を軽んじたことを後悔し、
自分を責めなかったはずはない。
怒り、悔い、悲しみ。それらが様々に交じり合い絡まりあった、複雑な感情。
そうした諸々の感情を咀嚼して昇華させ、同時にヒューの死を受け入れ認めるための
一種の儀式ようなものとしてとして、ヘンリーは犯人探しを必要としたのじゃないだろうか。
だからこそ、あれほどに真摯でかたくなにヒューの死の真相を求めつづけた。
そんな想像をめぐらせてみると、とても切なくなってくる。
先にこの本は推理小説である、と私は書いた。
しかし、ここであえて言い直そうと思う。
これは、まぎれもない、ラブストーリーである。
というわけで、目下、二作目の「ゴールデンボーイ」が読みたくて読みたくて、
捜し歩いている最中だ。
…何が気になるって、ヒューの死を乗り越えたあとのあんたが一番気になるんだよ、
ヘンリー・リオス(笑
訳者あとがきによると、二作目には彼に新しいロマンスが用意されているそうだ。
今度こそ幸せをつかんでいるといいと願っちゃいるが、どうなんだろうなぁ…。
さて、「死と再生の物語」のふたつめは、
中山可穂著「サグラダ・ファミリア[聖家族]」を取り上げたいと思います。
テーマ:読んだ本。│ジャンル:本・雑誌
NOVEL
| トラックバック(0)
│2008/05/28(水)20:55
« | HOME | »
FC2カウンター
カレンダー
| 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| - | - | - | - | - | 1 | 2 |
| 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
| 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
| 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
| 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
| 31 | - | - | - | - | - | - |
最近の記事
- 「男の子の性の本 さまざまなセクシュアリティ」 (06/12)
- 「このささやかな眠り」 (05/28)
- 気になっている本。 (05/10)
- 「カミングアウト・レターズ」 (04/27)
- 初めての方へ。 (04/27)
ブログ内検索

